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神戸簡易裁判所 昭和32年(ろ)988号 判決

被告人 末沢末一

主文

被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。

被告人において、右罰金を完納出来ないときは金四〇〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。

押収にかゝる未使用注文書一冊、赤色チラシ、青色チラシ、(証第六号ないし第八号)、アルシツクス一缶、石膏一缶、鉛型一ケ、埋没剤一缶、レシン歯一箱、樹脂液一瓶、モデリング一枚、歯型一ケ、ラバボール一ケ、フラスコ一ケ、ガラス板一枚、ヘラ大・小各一本、無縫冠器一ケ、無縫冠キヤツプ一箱、金型二ケ、ピンセツト・プライヤ・彫刻刀・鋏各一本、ゴム・金輪各一ケ、ヤスリ・金づち各一ケ、押型(雑)一ケ、クレンダー短針二本、圧迫器一ケ、フロンダム一組、領収証一冊、ビラ一五枚(同第一二号ないし第三七号)はこれを没収する。

理由

(一)  罪となるべき事実

被告人は、歯科医師および歯科技工士の免許を受けておらず、かつ法定の除外理由がないのにかゝわらず業として、別紙一覧表記載のとおり、昭和三一年三月初頃兵庫県加西郡繁陽二七〇三番地長谷川儀太郎方において、同人の依頼を受けてその歯型を採得し、これに基き同人の上顎総義歯を作成し、これが試適、嵌入等をして料金四千円を収受したほか、昭和三三年六月下旬頃までの間に、同所ほか一箇所において、長谷川ちせ等二九名の依頼を受けて、これが歯型の採得、義歯の作成、試適、嵌入等を行い、もつて歯科医業および歯科技工を行つたものである。

(二)  証拠の標目(略)

(三)  法令の適用

判示所為 歯科技工法第一七条第一項、第二八条第一号、歯科医師法第一七条、第二九条第一号、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第五四条第一項前段、第一〇条(重い歯科医師法違反の罪の刑に従い処断の上、罰金刑を選択する)。

労役場の留置 刑法第一八条

没収     刑法第一九条第一項第二号、第二項

(四)  弁護人の主張に対する判断

(イ)  特別弁護人は、先づ被告人は歯科技工士師であつて、

歯科技工法にいう歯科技工士とは別個独立のものであり、歯科技工法にいう技工士とは歯科医師の助手的存在にあるものを称すものであるが歯科技工師という場合には歯科医師とは全く独立の立場にあるものでこれは公認日本歯科技工師会の免許を得てはじめてその資格が与えられるものである。而して歯科技工法の適用を受けるものは前記歯科技工士であつて、被告人の如き歯科技工師には同法の適用はないと主張するのでこの点につき按ずるに、歯科技工法にいう歯科技工とは、同法第二条によつて明かな如く、その呼称の如何を問わず、実体的に「特定人に対する歯科医療の用に供する補てん物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工する」ことをいうのであつて、その名称如何を問わず、右歯科技工の業務を実質的に行うものはすべて同法の対象となるものである。したがつて特別弁護人のいうが如き歯科技工師と歯科技工士の区別は全く弁護人独自の見解であつて、それによつて、歯科技工法の適用を左右する法令上の根拠を見出すことは全く出来ない。したがつて被告人につき同法の適用はないという特別弁護人の主張は採用出来ない。(このことは同法附則第二条の規定に照しても明かである)。

(ロ)  つぎに特別弁護人は歯型の採得、義歯金冠等の試適、嵌入等いずれも歯科技工師がこれをすべきで歯科医業の範囲に属さないものであると主張するが、右の行為はいずれも直接患者について歯牙、歯根その他口くうの状態を診察してこれを施すことの適否を判断し、患部に即応する施術をすることを要するものであり、その施術の結果如何により、患者の健康に影響を及ぼすおそれがあるから、当然歯科医業の範囲に属するものと解すべきである。したがつてこの点についての特別弁護人の主張も採用しない。

よつて、主文のとおり判決する。

(犯罪一覧表略)

(裁判官 原政俊)

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